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駄文置場という名の虚無空間です

 

よし、虚無ろう

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Category:紅の標

海賊戦隊ゴーカイジャー外伝『紅の標』 1章/Ⅱ 


1章/Ⅱ


 太陽がもしも無かったとしたら。
 太陽と呼ばれる恒星を中心としてひとつの体系を成す星々は降り注ぐ熱を失い、たちまちに凍りつくだろう。命を育むための光、大気、水、自然は連鎖的にそのバランスの均衡を崩す。それは星の終わりと言ってもいい。
そのような世界で人が生きていくことは出来ない。
太陽はまさに命の星なのだ。

 だが、今この惑星エイトの頭上に輝く太陽は、少し事情が違っていた。

『二重恒星太陽』……俗にそう呼ばれるこの太陽系の中心に存在するふたつの輝き。

だがその見かけや俗称とは裏腹に、この恒星は双子星という訳ではない。片方の天体は恒星自体が熱を発し、水素、ヘリウム、酸素、炭素、窒素、ケイ素……その組成物もまさに太陽のそれで出来ている。
しかし、この太陽に寄り添うようにして輝くもうひとつの光……それは星ではなく、"空間歪み"から溢れ出る膨大なエネルギーの吹き溜まりである。

 一説によればその発生は2万6千年以上前、亜空間に発生した"魔空空間"なるものを安定させるために放出されるエネルギーが空間を歪ませ、この太陽系に口を開けたのだという。その中には"魔空監獄"という異次元の牢獄が存在し、凶悪な犯罪者達が収監されているという噂も実しやかに囁かれている。

 つまりあの輝きは太陽などではなく、一種の"ホワイトホール"に分類されるものだ。しかし吐き出されるエネルギーは太陽のそれと違わぬ熱量を有しており、恒星と同等の質量も観測される、"擬似太陽"とでもいうべき状態で遥か以前からそこに鎮座し続けている。

 この星達もまた、昔からこの銀河の星達の命を育むための光を発してきた。どのような成り立ちであろうとも、この太陽系はこうして均整を保ってきた……そのはずだった。


 それが、どこでおかしくなってしまったのか……。



 砂に埋もれた大地に視線を落として、物思いに耽っていた男の足元をホバーエンジンの震動が揺さぶったのはその時だった。砂の上を這いずる生き物のように砂漠を突っ走る黄土色の車体――【ホバークラフター】と呼ばれるマシンが傾斜のきつい砂丘をひとつ乗り越えたらしい。
 【ホバークラフター】の荷台部分に座り込み、砂まみれの外套を着込み直して男は沈黙していた。
 運転席には銀色の肌をした男が二人……先ほどの出来事を遠巻きから見ていた連中が座り、荷台には砂漠で倒れていた遭難者の男も乗せられている。

「す、すまねえな兄さん、そんな荷台に乗せちゃって」

 銀色の肌の男が――甲高い声をした方は『ハテッサ』と名乗った――助手席から振り返って困ったような笑いを浮かべた。先ほどまでとは打って変わったその態度から、あのザンギャックを一人で片付けてしまった男に対しての恐れが窺い知れる。それは運転席に座るもう一人も――こちらは『ロブ』というらしい――同じようで、引きつった笑いを浮かべて車のハンドルによく似た操縦管を握り締めていた。

「いや、街まで送ってもらえるんだ。贅沢は言わないさ」

 目深に被った外套の奥から聞こえた声色は穏やかなもので、ハテッサとロブは内心で息をつく。あんな光景を見せられた直後に街までの案内を頼まれては断れようはずもない。遭難者を荷台に乗せるのも二人は手伝った。人助けは馬鹿のやる事などと言える余裕はなく、辺りに転がったザンギャック兵士達の残骸に背筋を寒くしながら男の頼みを聞いて車を発進させたまでだ。

「まったく、えらいのに絡んじまったなあ……」

「さっさと街まで行って降ろしちまおうぜ……」

 運転席の二人だけが聴こえる小声で囁きあったハテッサとロブは、自分達の取った軽率な行動をひどく後悔していた。こんなところをザンギャックに見られでもしたら、それこそ自分達にまで火の粉が降りかかる事になる。そうなってからでは遅いのだ。奴らに眼をつけられては、この星で生きては行けない。

「それに……ロブも見たよな?あいつのあの赤い体、最近この辺りの星で賞金首相手に暴れまわってるって噂の赤い奴って……」

「ごちゃごちゃ言うなって……!これ以上巻き込まれてえのかよ」

 ロブが溜息混じりにアクセルを踏み込んでホバークラスターのスピード上げると、吹き散らされた砂が車体の後方へと弾け飛んでゆく。頬を打つ風は力強くなったが、行く手は延々と続く砂の大地であり、進んでいるという実感に乏しい。エンジンの唸りだけが聞こえる沈黙の中で、ハテッサは居心地が悪そうに身を捩っていた。

「過酷な環境だな」

 矢先に荷台から聞こえてきた声でハテッサはビクンと身震いした。外套の男が砂漠を見つめながら呟いていた。

「……ま、まあね。この星の大地はほとんどこんな状況でさあ」

 無視を決め込むのも恐ろしかったので相槌を打つ。運転席でロブが"バカ野郎"とでも言いたそうに苦い顔をしていたが、もう遅かった。

「枯れた大地……あのふたつ並んだ太陽のせいか」

 外套の男が真上に視線をやる。突き抜けるような空の蒼の向こうから、その身を寄り添うようにして並ぶ太陽が"二つ"……本物の太陽と、渦巻くエネルギーの塊が並んでこちらを見下ろしていた。

「えーっと……干上がっちまったのは確かにそのせいなんだけど、原因は別にあって、そのぉ……」

 煮え切られない口ぶりのハテッサは、ちらちらと傍らのロブへと助けを求めるような視線を送る。ロブとしては俺に振るな!と怒鳴りたくなったが、ここで男の機嫌を損ねても得は無い。再度の溜息とともに憤りも吐き出し、やれやれとハテッサの代わりにその口を開いた。

「……この星も最初っからこんな干からびた星だった訳じゃない。森もあれば川もあったさ。動物だっていっぱいいた。だが、つい一年ほど前にザンギャックの実験場に選ばれちまってね。科学者が妙な爆弾を使いやがった」

「これもザンギャックの仕業か……」

「ああ。人体には危害を加えず、星の環境だけを変化させる戦略兵器の実験だったそうだ。大したもんだったよ、森も川も全部瞬く間に砂に変わっちまった。自然を失った動物達はあっという間に死んじまったよ。残ったのは人間だけだ」

 その言葉で男はハッとなった。今、ホバークラフターが走るこの砂漠の砂……これはただの砂ではない。

「この砂漠は、この星の"自然"と呼ばれていたものの粕で出来てんのさ」

 乾いた笑いが混ざったロブの言葉に、外套の男はギリッと拳を握った。星ひとつの自然を――それも多くの人々が住まう場所で、何という事を……!

「その爆弾は成層圏の高濃度オゾン帯までボロボロにしてくれてやがった。おかげであの二重恒星太陽に晒された地表は雑草ひとつ生える事もない……それが今の惑星エイトって訳だ」

 この星も、つい一年ほど前までは"地球"と変わらぬ自然豊かな星だったのかもしれない。だが、今はそれを幻視する事すら叶わない。面影はすべて消え去り、熱砂となって星を覆い尽くしている。

「キミ達は、自分の星をこんなふうにしてしまったザンギャックに対して何とも思わないのか」

 こんな暴虐が許されていいはずがない……外套の男は内心怒りに震えて彼らに尋ねたが、対称的に二人はどこか既に諦観めいたものを表情に宿していた。

「そりゃあ俺達だってあいつらは好きじゃないんだけどね……」

「今更嘆いたって仕方ねえのさ。この星はザンギャックの占領下だ。奴らに逆らえば死ぬ。なら逆らわない。それが生きるために必要な事なんだ、この星じゃあな」

 諦め。
 強大な力によって怒りさえも抑え付けられてしまった。
 これがザンギャックの侵略というものだ。今まで見てきたザンギャック占領下の星々でも、同じような表情をした人々がいた。敵わないのなら従うしかない……力による支配というのは原始的でありながら強力であり、拮抗出来る力が存在しなければ不変とも言える強固さを持っている。力を持たぬものは、ただ支配されるがままになるしかないのだ。
 今、この宇宙に広がっているこの恐怖支配を食い止めねばならない。そのためには――。

「あー……そういや兄さん、名前は? こんな星に何しに来たんだい?」

 重くなった場の雰囲気に耐えかねたのか、ハテッサは話題を変えようと外套の男に尋ねた。そういえばこちらからは名乗っていなかったなと気付くと、男は外套のフード部分を取ってその素顔を再び晒した。
 その肌は赤く、人間のそれではなかった。両眼は大きなゴーグルに覆われ、その下から力強く結ばれた口元が覗く。額の金縁のVラインが太陽光を反射して煌いた。

「私の名はアカレッド」

 男は、そう名乗った。 

『アカ、レッド……?』

 男が名乗った名を、ハテッサとロブが口を揃えて反芻した。
 アカレッド――赤でレッドなんて、同じ事を二回言ってるじゃないかと率直な感想が口をついて出そうになったが、そんなツッコミを入れる勇気はなかった。
 あまりにも見たままの名前に呆気に取られた二人を差し置いて、アカレッドは続ける。

「この星へは、人を探しにきた」

「人探し、ね……」

 誰を尋ねて来たのかは知らないが、こんな辺鄙な星まで来るとはご苦労なこったとロブが内心毒づいた矢先、【ホバークラフター】の行く手に街が見えてきた。この星に残る数少ない都市……というにはみすぼらしい、砂漠にポツンと佇むオアシスのような小さな街だった。

「あそこにいるといいけどな」
 
「ザイークという技術者だ」

「技術者?」

 この星に、わざわざ遠方から誰かが訪ねてくるような技術者がいただろうか。今のエイトには今日を生きるだけが精一杯の名も無い連中がいるだけで、よその星から頼ってくる者がいるとは意外な話だった。

「こいつを使えるようにしてくれる人物だ」

 言ってアカレッドが取り出したのは人を模した小さな人形だった。いや、一見すればそれは人形に見えたのだが、腰の部分で二つ折りに変形する機構が設けられている。

「それは?」

「"レンジャーキー"という」

 アカレッドの指先でカシャッと音を立てて形を変えた"レンジャーキー"は、その名の通り鍵の形となった。それが何処の鍵を開けるためのものなのかロブ達は分からなかったが、ザンギャックの連中に喧嘩を売ってまでここに来た男が持っている物だ、それがただの鍵でもおもちゃでも無い事だけは察しがつく。

 だから、先ほど失敗したばかりだというのに、ロブは持ち前の好奇心が首を擡げ始めて尋ねてしまった。「価値のあるもんなのか?」と。

「価値……か。そうだな、あるとするなら」

 アカレッドはその手に握る赤色のレンジャーキー……アカレンジャーのキーを見つめながら――

「戦士達の戦いの歴史と」

 ――今は遠い、銀河の彼方にある蒼い星の姿を思い返しながら―― 
 
「明日という扉を開くための、大いなる鍵だ」

 ――そう告げた。

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